FC2ブログ

記事一覧

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ハッピーエンドⅧ


ハッピーエンドⅠ(9/9)
ハッピーエンドⅡ(9/10)
ハッピーエンドⅢ(9/13)
ハッピーエンドⅣ(9/17)
ハッピーエンドⅤ(9/25)
ハッピーエンドⅥ(10/02)
ハッピーエンドⅦ(10/17)

「すみません。愛沢蓮さんの友人の舞波なんですが、蓮さんはご在宅でしょうか?」
「あーはい、ちょっと待っててねー」
インターホンから蓮ちゃんのお母さんの声が聞こえた。暫くして物音に続いて蓮ちゃんがドアを開けてくれた。
「どうしたん舞波?」
いつも過ぎる蓮ちゃんの表情、態度。いつもなら見てホッとする蓮ちゃんの姿も、今は普段通りの彼女に胸が締め付けられる。私は負けじと本心を隠し、いつも通りを装った。
「今ちょっと家が大変でさ。お金も無くて外でも時間潰せないから蓮ちゃんに会いにきた」
私は小首を傾けニコッと笑った。
「なんだよー寂しがりやな奴めー」
そう言って悪戯っぽくニコニコと笑う蓮ちゃん。ホント強いなぁ…蓮ちゃんは。私は流れのまま蓮ちゃん宅にお邪魔し、彼女の部屋へと入った。
「ま、ゆっくりしてってよー。なんも無いけど。今お茶持ってくるねー」
そう言って蓮ちゃんは一階のリビングへと降りていった。何も無いか…。そこには確かに、絵に書いたような普通の女の子の部屋があった。…うん、ちょっと物が散乱してるけど。漫画とかゲームとか。それでも、いやだからこそか、私の部屋よりよっぽど部屋らしかった。こうして比べてみると私の部屋は必要最低限の物しかない無機質なものだ。飾りたい思い出も、飾り物を買うお金も無い。こういうクマの人形とか、思い出の写真とか、絵とか。いいな…とか思ってる場合じゃない。何を変に感傷に浸っているんだ私は。カーペットに腰を下ろす。目の前には丸いガラスのコーヒーテーブルが置かれている。暫くしてトントントンッと軽快な足音がした。
「お待たせー。お茶とお菓子持ってきたよー」
「わざわざごめんねー」
なんともなくする蓮ちゃんに、私もなんともなく答える。
「って言っても、うちにはなんも無いけどどうする?ゲームとかなら下に行けばあるけど。もしくは弟のゲーム機借りて携帯ゲームでも」
お互いにポテトチップスを食べながら会話する。
「そうだねー。とりあえず…寝る!私は寝る!」
「は?!」
持っていたポテトチップスを落とし、蓮ちゃんは驚愕の表情で固まった。
「隙ありっ!」
私は蓮ちゃんのベッドへダイブした。
「いやいやいやいやいやいやいやおかしいでしょ舞波!他人の家来て颯爽とベッド奪って寝るとか!」
蓮ちゃんは私を引きずり下ろそうと腕を引っ張る。私はなんだか楽しくなってしまい、笑ってしまった。
「冗談だって冗談。寝ないから」
私は笑いながら体を起こした。
「くそう舞波がうちに来るとこんな性格になるとは…これが化学反応か」
「私と蓮ちゃんの家の間に化学はありませんよ。あるのは私と蓮ちゃんとの間にある友達反応」
ベッドに腰を下ろしたままの私は、立っている蓮ちゃんを見上げながら言った。
「ぐはぅあっ?!なんだこいつ!こんなの舞波じゃねえ!気色悪いぞ!」
普通に傷つくな?!…でも確かに今のはないきがする。蓮ちゃんなら普通に言ってそうだけど。
「私そんなに友達を大切にしてるとか、言っちゃダメ?」
「う゛んっ!」
左様ですか…。まさかこんなにも早い段階で傷つくとは思わなかったよ。
「じゃあ蓮ちゃん。私がどれだけ蓮ちゃんを愛しているかここで証明してあげる」
「えっ?…いや、それはちょっと」
普通に引かれた。二、三歩引かれた。私はまたも傷ついた。まあ今のは私の言い方も悪かった。間を置くのもあまりよくない。スパッと覚悟を決めてスパッと言おう。
「蓮ちゃんさ…いじめられてるでしょ?」
一瞬にして蓮ちゃんの表情が冷めた。そして顔を引きつらせこう言った。
「そ、それは舞波にいじめられてるってこと?いじめるのは愛情の裏返し的な」
私は真面目な顔で首を横に振った。
「机の中、虫の死骸でいっぱいだった」
蓮ちゃんの顔が完全に凍りついた。空気が重くなり、胃と心臓が締め付けられる。蓮ちゃんはもう言葉が出ないのか、俯き視線は遠かった。
「ごめんね蓮ちゃん。気づくの遅れた。もっと早くに気づいて、蓮ちゃんを早く助けてあげたかった」
私はなるべくゆっくり言った。間を置いて、冷静に。
「私、蓮ちゃんを助けたい」
蓮ちゃんは強引な作り笑いを浮かべ部屋の中を歩き始めた。
「大丈夫だよ舞波。私あんなのじゃ全然へこたれないし。変に手出したら舞波まで狙われちゃうよ?私はほら、強いからさ。ガタイもいいし。舞波はちっちゃいじゃん。力も無いしさ」
いいよ蓮ちゃん…もういいよ。つらくないわけないよ蓮ちゃん。バレた今でも関わるなって、私をどれだけ大切に思ってくれてるの?私には勿体無いくらいだよ…。
「言ったよね蓮ちゃん。私がどれだけ蓮ちゃんを愛してるか証明するって」
蓮ちゃんは後ろを向き、顔を隠す。泣いているのだろうか。
「私はこの先も、何があってもずっと蓮ちゃんの味方でいる。私が支える。だからもう…一人で抱え込まなくていいんだよ?」
蓮ちゃんはじっと動かないまま、何も言わずにいた。緊張と何かが崩壊した空気が流れる。きっと今のままの関係ではいられなくなったような、そんな崩壊感。蓮ちゃんは後ろを向いたまま、震える声で言った。
「私さ、初めてじゃないんだ。初めは中学のバスケット部。一年の頃から身長が高いからって起用されてね、反感買ったんだ。最初は我慢してたんだけど、つらくなって、その時一番親しい友達に相談したんだ。…そしたらいじめがその友達にまで飛び火してね。…あんたのせいで酷い目に遭ったのよ、もう近寄らないでって、言われちゃった…」
途中からもう涙声になっていた。私は声を大にして言った。
「私はそんなこと絶対!──」
「その友達はね!今度は私をいじめる側になったんだよ?!」
しかし私の声は蓮ちゃんの大声に掻き消された。振り向きながら言う蓮ちゃんの顔は真っ赤で、文字通り泣き腫らした顔だった。始めて見る友人の泣き顔に、私は言葉が詰まった。何年もずっと封印してきた激情をここで放ったのだ。それも、極めて今つらい状態で。私はそんな蓮ちゃんの顔をじっと見るだけで精一杯だった。でも、それでも私は伝えなくてはいけないと強く思った。そうでないと、そうしないと蓮ちゃんがどこかへ行ってしまう。そんな状態で私ができた唯一のことが、頷くことだけだった。ゆっくりと、わかってる、わかったよ、と頷くだけだった。もう何を言ったらいいのかまったくわからず、理性が半分パニックに陥っている状況で、私の本能が口を開いた。
「こっち、おいで…蓮ちゃん」
それを聞いた瞬間蓮ちゃんは唇を上げ、鼻を鳴らし、頬が上がり目が押された。そして蓮ちゃんは大泣き声を出して、私の胸に飛び込んできた。私は蓮ちゃんを抱きしめ、頭をずっと撫でた。私の膝の上で泣く蓮ちゃん。いつもはあんなにでかいのに、この時の蓮ちゃんは異様に小さく見えてしまった。それだけ蓮ちゃんの抱えていたものがでかかったのだろう。私は少しの安堵と、蓮ちゃんを慰める気持ちで一杯だった。そして暫くが経ち、蓮ちゃんは泣き止んだ。それでもまだグスグスと鼻は鳴っている。
「ごめんね舞波…」
「何が?」
私の膝から離れていく蓮ちゃん。
「迷惑…かけて」
「バカ…迷惑なんてこれっぽっちも思ってない。こっちこそ、気づかなかったし…それに」
それに、切り捨てようという選択肢も、頭にはあった。それが今はとてつもなく腹立たしい。そんな自分を許せそうにない。
「でも…舞波も巻き込まれたら」
「上等。返り討ちにしてみせる」
蓮ちゃんは黙り込んでしまう。きっと蓮ちゃんの中で巻き込んでしまうことが正しいのか、葛藤が渦巻いているのだろう。私は蓮ちゃんを心配させてはいけない。
「蓮ちゃん。乗り越えられるよ、絶対。…少なくとも私は蓮ちゃんを裏切ったりしない。何があっても。だから一緒に頑張ろう。つらくなったらこうやってまた蓮ちゃんのうちに来るからさ」
「…本当にいいの?」
私は間髪いれず、覚悟を決めた重い口ぶりで「うん」と答えた。蓮ちゃんは今までどれだけつらかったのだろう。私はいじめられた経験が無い。だから本当の意味で蓮ちゃんを理解してあげることはできない。昔の彼はこう言っていたっけ。人が人を完全に理解することなど不可能だ。だから人間には思いやりが必要で、それは自分の思いを押し付ける行為だと勘違いしている奴もいる。そしてなんだかんだと言ったところで最終的には人間は自己満足で動いている、と。なんとも身も蓋も無いもので、それが真理だとも思う。だから私が気をつけるべきは、蓮ちゃんに私の思いを押し付けないこと。それでいて蓮ちゃんの気持ちをリードしてあげないといけないのだろう。私は自分のために、蓮ちゃんとまた一緒に笑い合いたいから、蓮ちゃんの笑顔を見たいから、だから全力を尽くす。何があっても蓮ちゃんとの大切な日々を取り戻す。私は煮えたぎる思いとは裏腹に酷く冷静で、自分はなんなんだろうと思った。そして私はティッシュで鼻をかむ蓮ちゃんに近づき、蓮ちゃんの垂れた髪の毛を耳に掻き揚げた。なんだか蓮ちゃんの姿を見てちょっとおかしくなった私は笑顔で言った。
「私、負けないから」
それは、後から思えば、人生初の、思いやり(親友)だったのかもしれない。

ハッピーエンドⅨ(11/22)

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。