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ハッピーエンドⅤ

ハッピーエンドⅠ(9/9)
ハッピーエンドⅡ(9/10)
ハッピーエンドⅢ(9/13)
ハッピーエンドⅣ(9/17)

「お、誰もいないじゃん」
体育館は私と蓮ちゃんだけの広い空間となっていた。
「バスケやろうぜーっ」
その辺に転がっていたバスケットボールを拾って蓮ちゃんははしゃぐ。
「よっ!」
流麗にレイアップシュートを決める。リングから落下するボールをキャッチをすると弾くように剛速球パスが回ってくる。スリーポイントラインで待っていた私はボールをキャッチする。自然に体が動く。流れるように私はその場で足をバネにし、掌からボールを放った。スッとネットを擦る音だけが響く。
「おお、やっぱ舞波上手いなあ」
蓮ちゃんはシュートからボールを目で追い言った。
「元バスケ部には敵わないけどね」
蓮ちゃんは中学時代バスケ部として結構活躍をしていたらしい。なのに高校では陸上部に入っている。前に聞いた時バスケには飽きたって言っていたっけ。
「それでも舞波、運動神経いいんだからどっか部活入ったら?それなりに活躍できると思うけどなあ。授業だけでしかやったことないバスケで、こんなに上手いんだから驚くよ」
言いながら蓮ちゃんもスリーポイントシュートをなんなく決める。
「冗談。今から入ったってしょうがないよ。それに私部活とか興味ないし」
蓮ちゃんは私にパスを回してくる。今度はレイアップでもやろうかな。私は走り出した。
「案外楽しいかもよ?それに気の合う人と出会えるかも。それこそ恋人とか」
にししっと笑う蓮ちゃん。ま、そんなこと言われて動揺する私ではない。空中に置いてきたボールは、ボードに跳ね返りリングへと落ちていった。
「いいよ別に。いいことがあるかもしれないけど、嫌なことだってあるかもしれないでしょ」
「んー、まあそうね」
あれ…?なんか意外だった。蓮ちゃんなら「若い者がそんな後ろ向きなこと言うべきじゃないぞ」とか「わからないならことがあるなら、飛び込んで確かめるしかないじゃない?」とか、それくらいのことは言いそうだった。そう、彼女と私はそこでも大きく違うタイプだと思っていた。私はつらいことと、幸せなこと、両方味わうか、両方無いものにするなら、後者を選ぶ。きっと蓮ちゃんは前者だろうと思っていたんだけど、彼女も色々苦労しているのかもしれない。
「でも、部活入ったら絶対モテると思うよ、舞波」
私はあまりにも突拍子もないことに目を丸くした。
「は?なんで?」
「え?そりゃ可愛いからでしょ」
…蓮ちゃん。可愛いの定義がおかしいと思うよ。私の怪訝な表情は直らず、思わず訊ねる。
「どの辺が?」
「え?!いやフツーに可愛いじゃん見た目が!顔とかさ、整ってて羨ましいよ」
…自分の中の“可愛い”がゲシュタルト崩壊を起こした。可愛いってなんだろう?何が可愛いなんだろう?
「えーっと、自分で言うのもあれだけど、私は暗いって表現の方が似合ってると思ってたんだけど」
蓮ちゃんは真顔で即答した。
「確かに」
こぉおおいつぶっ飛ばしてやろうか。とか思いつつ私は冷静に話を続けた。
「ま、まあ、なんていうか。着てるものもユルフワな感じじゃないし、似合わないと思うし、求めてないし。性格的にも積極的に笑ったりしないし、女の子っぽさもないし」
気づけば蓮ちゃんは私のことをじっと見つめていた。すると今度は真顔で近づいてきた。そして無言で私の両肩をガシッと掴む。
「な、なに…?」
蓮ちゃんは無言のまま、真顔のまま私を見つめる。私は意味わからず蓮ちゃんを顔を見返していた。すると蓮ちゃんは急にニカッと笑顔になり「いや、やっぱ舞波は可愛いよ!」と言った。
「はあ…何回言われてもパッとこないし、意味がわからない」
蓮ちゃんは振り返りあっはっはっと笑いながらボールを追っていった。
「舞波は自分の魅力に気づいてないな。特に…私に抱きついてきた時なんてすごい可愛かったのに」
にやり…と不適な笑みを零して言った。イラッッッ!!ときた私は蓮ちゃんにダッシュ蹴りをかましていた。その後私は蓮ちゃんにあの出来事を忘れろと要求したが、笑って逃げるばかりで聞き入れてはくれなかった。こうして賑やかに僅かな昼休み時間を潰し、気づけば体育の授業が始まる時間になっていた。そして更に時間は流れて行き、今日も下校時刻となった。
「はあ、疲れたなあ」
珍しく蓮ちゃんがそんなことを言った。
「今日はこれから部活でしょ?」
「うん…なんかめんどくさいな」
蓮ちゃんにもそういうこと言う時があるんだなあ。だっるー、と言った感じで腕をぷらぷらさせていた。私は寝不足の上に体育をやって、さすがに眠い。自然と欠伸が出てしまう。みっともなく開けた口を手で塞ぐ。
「舞波もおねむですな」
相変わらず元気無さそうに蓮ちゃんは言う。
「そだね、さすがに。じゃ、部活頑張ってね」
「ういー」
お互い気だるい挨拶をして別れた。眠いと言っても家には帰れない。というか、帰ってもイライラするだけで、ちっとも休めない。となると喫茶店しか行く場所がないのだ。私はいつもの道を通って喫茶店へ入ろうとする。すると不意に近くのおばさんから声をかけられた。
「ちょっとあんた。最近よく見かけるけど、そんなとこあんまり入らない方がいいよ」
は?どういうことだろう。
「なんでですか?」
「なんでって…女の子が一人で入ったら危ないよ」
え?どういうこと?普通のお店じゃないの。確かに客は私以外見かけないけど、それは夕方以降の話で、そもそも開店したばっかりだから客もまだ少ないだけで。疑問が頭を駆け巡る。しかしそれを口にすることができないのが、私の不器用さであり器用さでもある。あまり下手なことを言って面倒なことを起こしたくないのだ。子供の頃から必須の行動だ。結果私は怪訝そうな顔でおばさんを見返すしかなかった。
「あのね、あんた。…とにかくあまりあそこには行かない方がいいよ」
おばさんは終始嫌なものを見るような目で話し、去っていった。
「…何よ、いいお店じゃない」
私は自分の好きな店を馬鹿にされた気分で悔しかった。そのあまりボソリと独り言を呟いた。カランッといつもの入店ベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
この人はいつもこの店いるなあ。ひょっとして週七シフト?九首見さん…だったよね。
「どうぞこちらへ」
人数確認もされなくなった。もう常連扱いされてる気がする。
「コーヒー一つ」
「かしこまりました」
いつも通り優しい笑顔でお辞儀して行った。…まったくこんなとこ入るななんて失礼にもほどがあるわ。あー、もう眠いなー。寝不足だから余計にカリカリしちゃうのかな…。
「お待たせいたしました。コーヒーと抹茶のパウンドケーキです」
「あっ、ありがとうございます」
私はなぜか座ったまま頭を下げて深くお辞儀をした。ぼーっとしすぎて定員さんが来ているのに気がつかなかった。
「今日は、お疲れのようですね。何かありましたか?」
笑顔のまま店員さんは言ってきた。なんだかこのフレンドリーさが嬉しい。
「ちょっと寝不足で」
私は苦笑いで答えた。
「そうでしたか。いつも小説を読んでいたのに、今日は遠くを見ていたので何かあったのかと邪推を。失礼致しました」
店員さんは軽く頭を下げる。
「あ、そんな、声かけてくれて嬉しかったです。いつもいつも金にならない客にこんな親切にしてもらって、こっちこそ、その…」
あたふたしながらモジモジと謝罪をしようとしていた。それを見た店員さんはクスッと笑って「ごゆっくりお寛ぎくださいませ」と言ってその場を去った。あー、ずるいよあの人。私は火照った顔を隠すように机に突っ伏した。行儀悪いとわかっていても、もう体を起こすのだるくて、私はパウンドケーキをうつ伏せの状態で口に運ぶ。あーおいしいな…。あ…もう眠い。ふっと意識が飛ぶ。暗闇の中声が聞こえる。「殺せ。殺さなければ居場所が無い。奪い取れ」地鳴りが聞こえる。割れる。地面が割れる。崩れる。目の前の景色が崩れていく!はっと目が覚める。肩から何かズルッと落ちた。え?毛布?私は落ちた布を拾い上げた。それは温かな茶色をした毛布だった。…はーっ、なんか夢の中でも疲れた。私は毛布を畳み始める。するとスマホの通話によるバイブレーションが鳴った。…地震の夢はこれが原因か。スマホの画面を見ると、家族からの電話だった。私のイライラは増した。いっそ無視してやろうかと思ったのだが、家族からかかってくることは珍しく、それが私の冷静さを取り戻した。仕方なしに電話に応じる。
「舞波か?今すぐ家に帰ってきなさい」
父の声だった。私は時刻を確認する。十九時過ぎ。父が帰ってきてすぐと言ったところか。どうせ断ったって面倒くさくなるに違いない。ならさっさと終わらせてしまおう。
「わかったわ」
私は残りのパウンドケーキを平らげ、冷え切ったコーヒーを一気飲みした。私は会計へと向かう。するとフロアで掃除をしていた定員さんがすぐさま気づき、レジまでやってくる。
「ありがとうございました。四百円になります」
私は機嫌が悪いまま四百円きっちり出した。
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
はっ!思い出した。
「あっ、あのっ、毛布ありがとうございました」
私はドアにかけた手を放し、定員さんとちゃんと向き合って深く頭を下げた。
「お客様にリラックスしてもらうのも大事なことです。お疲れのところ、少しでも癒しを提供できたのなら本望ですよ」
笑顔。安心する笑顔。勇気付けてくれる笑顔。
「あ、あの…ありがとうございます」
私はペコリと再度頭を下げた。
「是非またお越しください」
ありがとう。そう言いたくてしょうがない。本当にありがとうございます。私は心の中で三度お辞儀をして、店を後にした。私も彼みたいに、人を安心させるような笑顔ができるようになるだろうか。私は帰る途中、ずっと彼を想っていた。私もあの人のようになりたい。叶いそうもない願いだからこそ、憧れるのかな。なんて苦笑いをこぼす。他人を切り捨てる強さと、他人を気遣う優しさ…。私が持つべきはどっちなのだろう。私が小学生の頃、助けてくれた彼なら間違いなく前者を推すだろう。でもあの喫茶店で働く定員さんは後者を推すのではないだろうか。実際私は定員さんに勇気付けられている。私ももっと、人に優しくすべきなのかも知れない。変わってみよう。一回だけ、挑戦してみよう。私は定員さんの笑顔を思い浮かべながら決意した。私もあの人のように。焦がれる思いを胸に抱いて。

ハッピーエンドⅥ(10/02)

コメント

No title

待ってました!
続編読めて嬉しいです(*´∀`*)
お?これはどういう意味だろ?っていう伏線っぽいのがチョイチョイ出てきて、
ますます面白くなってきましたね。
次回は舞波が家族と向き合う話になるのかな?
続編楽しみにしています!

No title

いつもいつもコメントありがとうございます!
読んでくださって、感想を言ってくれる人がいるととてもモチベーションが保てるのでありがたい限りですよ。
本当ありがとうございます。

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