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ハッピーエンドⅣ

ハッピーエンドⅠ(9/9)
ハッピーエンドⅡ(9/10)
ハッピーエンドⅢ(9/13)

「あーやっと終わったよ。帰ろうぜー舞波…って、舞波ぃ授業まともに聞いてなかったろー」
私は咄嗟に立てながら開いていた教科書を引っ張り、口元を隠す。
「勝手に人の教科書覗かないでくれるー」
私はジトっと蓮ちゃんを見ながら呟いた。蓮ちゃんはニッと笑いながら答えた。
「いや、見てんの教科書じゃないじゃん。なに?まだあのファンタジー小説?」
「そうだよ」
私は教科書を開いてその上に小説を置いて読んでいた。授業も終わったしそれらを片付ける。
「舞波にしては随分読むの遅いな。話し長いのか?」
「いや二週目だから。あ、違う三週目だ」
「何回読み直してんだよっ」
驚き突っ込む蓮ちゃん。はたから見れば元気で騒がしい蓮ちゃんと、リアクションが薄く存在感の無い私とでさぞ凸凹コンビに見えるだろう。身長的な意味でも。でも私はこの蓮ちゃんのマイペースに元気なのとこが好きなのだ。まあマイペースなのは私もだが。
「おもしろいからつい読み返しちゃうんだよ。一回目読んだ時何気なく読んでいたところが、二回目三回目で複線だったことに気づいたりして、おもしろいよ」
「ふーん、その人のシリーズ揃えたりするの?」
ガヤガヤと賑やかな声が校内に響く。私達もその青春という傘の下で、まったりと友人と話しながら、下校していく。
「いや、この作者一冊出して死んじゃったから」
「えっまじ?!なんで?」
平然と言う私に蓮ちゃんは驚きの声を上げる。
「首吊り自殺だったらしいけど。勿体無いよね、せっかくデビューヒットしたのに」
「いや、問題はそこか?」
蓮ちゃんは両手を頭の後ろに回しながら歩く。その時、腕を後ろに回した際持っていたカバンが振り回され、誰かにぶつかった。
「あ、悪い。大丈夫?」
蓮ちゃんはすぐに振り向き謝ったが、ぶつかった相手は憎悪に満ちた目で舌打ちをして去っていった。
「…なんだよアイツ」
「関わらない方がいいよ。嫌な予感がする…」
私は彼女が走っていく後姿を目で追っていた。やや小柄で細身。どことなく暗い印象を覚えた。って、人のこと言えないか…。
「なんだよ嫌な予感って。舞波が言うとなんか当たりそうで怖いな」
「占い師にジョブチェンジしたつもりはないけど、一応占い料千円ね」
「高いよ!ぼったくってるだろそれ!」
くぁっ!とこちらに振り向き憤慨する蓮ちゃん。
「女子高生がやると何でも高額になるみたいじゃない?」
「私も女子高生だよっ!」
わーわーとどうしようもない会話は弾んでいく。これが結構楽しいのだ。蓮ちゃんとは話をしているだけで楽しくなる。
「じゃあねー、舞波」
私は手を振って答えた。無論、まだ家には帰らない。私はいつもの…いや、新しくなった喫茶店へと向かった。
「いらっしゃいませ」
あ、昨日の親切な店員さんだ。私はチラッと周りを見渡す。またも客は私以外いないようだ。
「ひ、一人で」
「はい、一名様ですね。こちらへどうぞ」
くっ…相変わらずなんだかドキドキする!私は定員さんの後をついていく。昨日と同じ席に案内された。ふと思った。いや気がついた。ここの席は私が小学五年生の頃からお気に入りだった席だ。そう、私の初恋相手の彼がふんぞり返り座っていた席。定員さんはそれを知っているはずも無いのに、ここに通してくれた。嬉しい偶然だ。
「ご注文お決まりでしたら、そちらのボタンを押していただくか、一声おかけください」
「あ、えっとコーヒーお願いします」
「かしこまりました」
彼はお辞儀をしてカウンター側へ向かった。私はまたその後姿を目で追った。…ふーむ、私はやっぱり年上がタイプなんだろうか。ウェイターの彼も二十代半ばといったところ。でも性格は、デリカシーが無さそうでかつ偉そうなあの人とは全然違う。定員さんは、いかにも優しそうで、細かいとこまで気を配り、面倒見が良さそうで、とまったくタイプが違う。背格好は似てるけど。うん…それにイケメンだし。彼女とかいるんだろうなあ。…今思えば私を助けてくれた彼もイケメンだ。当時はそんなの全然気にしなかったけど、記憶を辿って見ればそうなのだと思う。…まあ、昔のことを思い出してもしょうがない。私はぼーっと恋について巡らせていた思考を断ち切り、いつもの小説を取り出し読み始めた。暫くして定員さんがやってくる。
「お待たせいたしました。コーヒーとフルーツパウンドケーキになります」
私はパウンドケーキに目を光らせながら、会釈した。無論目線はパウンドケーキに釘付け。これではパウンドケーキに挨拶しているみたいだ…否、間違えではない。甘いものは人を幸せにするのだ。挨拶すべき存在である。私の頭は糖分失調により思考回路がぶっ飛んでいた。そしてささやかな至福の時は流れる。あ、もうこんな時間か。時刻はもう二十四時近くになっていた。私は本をかたしながら周りに目をやる。やっぱり客はいない。私は立ち上がりお会計へと進む。
「ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
「はい、ありがとうございます」
ぺこっと私も頭を下げる。と同時に疑問が浮かんだ。あれ?定員さんこの人しかいないの?私は顔を上げると周りをキョロキョロと見渡した。
「どうなさいました?」
定員さんはたずねてきた。丁度タイミングがいいので聞いてみることにする。
「あの、他の定員さんまだビラ配りしてるんですか?」
定員さんはいつも通りにっこり笑って答える。
「ああいえ、今日はたまたまバイトに入ってる人が少ないだけです。裏に一人バイトがいますよ」
ああそうなんだ。全然気づかなかった。定員さんは、私の思考を読むように話を続けた。
「まあフロアは僕一人で十分回ってしまっている現状ですからね。今日もお越し頂いて嬉しいですよ」
くはっ!なんだこの営業スマイルはっ!ずるい…。私の急に顔が熱くなり、頬が赤らんだ。
「じゃあ今日はもう…帰ります」
私はなんだか急に恥ずかしくなってきて、話を切り上げて帰ることにした。
「はい、お気をつけてお帰りくださいませ」
定員さんは深々とお辞儀をして見送ってくれた。ああもう、なんだか熱いな!私はスタスタと歩いた。家に帰ると、玄関に父の靴が無いことに気づく。今日はどっか泊まり?いや、どっかで飲んでるじゃ…。背筋に嫌なものを感じる。黒い霧のようなものに肩を抱かれる錯覚。私は急いで自分の部屋へと逃げ込んだ。…はぁ。なぜだか今のでやたらと疲れた。その場で力尽き、腰を下ろす。と、同時にタンスでも倒れたのかという凄まじい音が鳴り響いた。
「おいっ!帰ったぞ!コラァ!!出てこいや!」
怒声。怒鳴りつける父の声。酔っ払いの声。喚き散らしながらドカドカとでかい足音を立てる。何度も物が割れる音が聞こえた。怒声はそのうち奇声に変わり、狂人の如く暴れだす。私は耳を塞いだ。鼓動が速くなる。もし私が部屋に逃げるタイミングが少しでも遅かったら…。そう思うと吐き気が止まらない。私は「さっさと寝ろ!さっさと寝ろっ!」と頭の中で何度も叫んだ。時刻は午前三時過ぎ。ようやく父は眠った。私は揺れる家と、怒声に恐怖し、その後も寝付けなかった。ふと思いがよぎる。彼なら、こんな時なんて言うだろうか。そう、あの捻くれ者の、私にとっての救済者。彼にこのことを相談したらなんて…。「殺せ」彼の声が私の中で囁いた。幻聴だ。でも、彼なら言いそうな気もした。もう、嫌だな…。いっそ泣きたい。涙さえ出ない自分に、意味も無く絶望する。そして朝はやってきた。結局一睡もできていない。…しょうがない、学校へ行こう。私は家族全員が眠っている内に、学校へ行く支度をして家を出た。何か色々と物が破壊されたり、飛び散っていたりと、一階が悲惨なことになっていた。私はそれらに極力目を向けず、見なかったことにする。頭がぼーっとする。でもお腹は減った。学校の近くのファーストフード店で朝飯を食べることにした。味ももうわからない。喉もうまく通らない。でもお腹は空いている。私は無理やりハンバーガーを口にねじ込み、飲み込んだ。そして高校へと向かった。七時半から始まる朝練に合わせて、一番乗りで学校に着く。私は一直線に教室までで向かい、自分の席に着き、寝た。即行で眠りに落ちる。微かに声が聞こえる。女の声だ。なんだか嫌だ。うるさい。黙れ。
「おいコラ春原!」
頭に鈍い痛みが走る。私は眠りから覚めた。顔を上げる。そこには担任の吉崎哲夫が私を見下ろしている姿が目に入った。
「寝るなら保健室行け」
私はきっと死にそうな目をしていたと思う。思考力なんてまるで無かった。それでも口は動く。
「…いえ、大丈夫です」
「うん、よく言った」
吉崎が何か言った気がするけど、うまく聞き取れなかった。吉崎が教卓へと戻っていったところを見ると、多分大丈夫だ。大丈夫?何が大丈夫なんだ?もう駄目だ、自分で何考えてるのか全然わからない。ぼーっとしていると聞きなれた声が私を少し勇気付ける。
「大丈夫か舞波?一応吉崎が来る前に起こそうとは思ったんだけどさ、中々起きなくて」
「…蓮ちゃん。ちょっとね、寝不足」
「いや見ればわかるよ。目元腫れてるもん。クマってレベルじゃないよ」
蓮ちゃんの話し方は本当に心配してくれているものだと、なんとかそれだけは感じることはできた。ありがとう蓮ちゃん。でもね、もう蓮ちゃんの言っていることが全然頭に入ってこないし、口から何も言葉が出ないの。あ…もう駄目かも。私はバタンと机に突っ伏し、寝た。まぶたを閉じた暗闇の中、言葉が響く。「殺せ…殺せ…お前に居場所はない。殺して掴み取れ。殺せ」うっすらと目が開く。視界の先で蓮ちゃんが俯いている。どうかしたのかな蓮ちゃん。私は重たい体を起こした。机がズルルと引きずる音が鳴る。蓮ちゃんはそれに気づき、こちらを向く。
「やっと起きたか舞波」
笑顔。いつもするいたずらっぽい顔だった。蓮ちゃんはこっちへ寄ってきた。
「大丈夫?まだ眠そうだぞ」
腰を曲げ顔を覗き込むように言った。
「うん、大丈夫。今何時間目?」
「昼休みだよ。どうする?今から学食行く?」
背筋を伸ばすと、蓮ちゃんはバッグを右手で後ろに回し背負った。
「あれ、蓮ちゃんはまだ食べてないの?」
「ああ、ちょっとね食欲無かったし、起きた時舞波私がいないと寂しいだろ?」
蓮ちゃんは小悪魔的な顔でからかってくる。その行為を素直に嬉しいと感じてしまった自分がなんだか情けなく思った。
「じゃあ行こっか、学食」
私は蓮ちゃんの冗談を無視して、席から立ち上がった。と、同時に足元がふらつく。
「おっ、大丈夫か?」
蓮ちゃんに向かって前のめりに倒れた。顔が蓮ちゃんの胸に埋もれる。蓮ちゃんは私を支えるように腕を私の背中に回した。
「保健室行ったほうがいいんじゃない?」
からかう風は無く、本当に心配する声。なんだろう、すごく安心する。私の腕はいつの間にか蓮ちゃんの腰へと向かい、強く抱きしめていた。
「…!ご、ごめん!」
私ははっとして、蓮ちゃんから離れた。
「あの、眠くてつい抱きしめてしまったというか。抱き心地が良くてついというか」
私はあたふたと言い訳をした。
「ぷっ。何それ。舞波がこんなに動揺するなんて珍しぃ」
蓮ちゃんはケラケラと笑い始めた。
「なっ…」
私は言われて気づく。恥ずかしくて顔が熱い。
「真っ赤になって超可愛い奴だな!」
蓮ちゃんの笑いは止まらない。
「もうっ、ほらっ、学食行くよっ!」
私は笑う蓮ちゃんを放置して学食へと向かった。蓮ちゃんは笑いながらついていくる。
「ごめんごめん。怒んないでよ」
「…別に怒ってないけど」
私はふんっとそっぽを向く。蓮ちゃんには私が拗ねているように映ったらしい。
「悪かったって。なっ?」
両手を合わせて、笑いを抑えながら謝ってくる。
「いやだから、怒ってないって」
ああそうか。私は恥ずかしいからちょっとツンとした言い方になってるのか。まあそれならそれでもいいいや。そう、私はこれっぽっちも怒りなんて抱いていない。友人に甘えたこと。蓮ちゃんにもたれかかって、支えてもらって、それがすごく嬉しくて、心地よかったこと。ありがとうって言いたくて、でも恥ずかしくて。すごく温かい。でも何か悔しい。私だけこんな恥ずかしい思いをして、蓮ちゃんがずっと一人で笑ってて、何か仕返しがしたくなる。そう、蓮ちゃんと一緒にいるとそういうことばかり感じ、考える。それがどれだけ温かいことなのか、幼い私は今頃気づいたのだ。
「…蓮ちゃん」
「な、何よ」
私が怒っているのだと未だ勘違いしているのか、ちょっと身を引き防衛体制に入っていた。
「…ありがとねっ」
今年一番の笑顔だった。

ハッピーエンドⅤ(9/25)

コメント

No title

蓮ちゃんいいキャラですね。
読んでいて温かくなりました!

クスッと笑ってしまうところもあり、
胸が熱くなるところもあり・・・。
この先、舞波がどう進んでいくのか、
楽しみにしています!

No title

自分も読んでて温かくなりました!
こんな友達欲しかったなー(; ̄ー ̄)=3
他にもよくしてくださっている友人がいるのに贅沢な話ですがw

自分ギャグセンス皆無だと思っていたのでクスッと笑えるところがあったのは超嬉しいですねw
今やっと続編を書き始めたところです。
いつもいつも応援ありがとうございます!

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