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ハッピーエンドⅢ


ハッピーエンドⅠ(9/9)
ハッピーエンドⅡ(9/10)

…後悔した。苦しい。
「お前よく食ったな」
彼は四分の一残ったパフェを見て言った。かく言う私は苦しくて苦しくてしょうがなかった。しかしなおも私はスプーンで生クリームを掬い上げる
「おい、無理しなくていいぞ」
彼の言葉も今となっては心苦しい。ジュース程度のものを奢る気でいた彼を、私が無理言って高額なパフェを頼んだようなものだ。それを完食できず残してしまうことが、なんだか申し訳ない気がしたのだ。そして何よりも「…もったいない」。そう、パフェなんて今度いつ食えるのかわからない!今のうち味わっておかないと…おぇ。
「おい吐きそうじゃねえか。やめとけ」
彼は私かスプーンを奪い取る。あっ…。なんか勿体無いような申し訳ないような…。
「…後は俺の分だ。三千円も払ったんだ、文句はねえな」
そう言うと彼はスプーンで一口パフェを食った。その後すぐにコーヒーを飲む。これを何度か繰り返し、パフェは無事完食された。今思えば彼は甘いものが苦手だったのではないのだろうか。時刻は二十三時を過ぎた。
「お前、いつまでいるつもりだ」
パソコンで作業を続けながら彼は言った。
「0時過ぎないとお父さん寝ない…」
彼は何も喋らず、少し間が空く。
「次からは本でも持って来い。何もせず何時間も座ってるのは苦だぞ」
私はテーブルに突っ伏しながら、彼を見上げる。なんか…優しいなあこの人。私は返事をすると、それ以降特に会話もなく二十四時を回った。
「ありがとうございましたー」
女性定員は笑顔で彼と私を見送る。私は彼の隣を歩いた。喋ることもなくただ横にひょこひょことくっついて歩く。
「ここまで来れば帰れるだろ。じゃあな」
私の家の近くまで来ると、彼はそう言ってすぐさま脇道に歩いていく。
「あ、あのっ…ありがとっ」
気持ちばかりが主張し、大きくもない声が、遠くまで響くように鳴った。彼は見向きもしないで歩き去った。こうして学校が終わればあの喫茶店に行き、図書室で借りてきた本をそこで読むようになった。帰り道は彼と一緒なので、必ずお見送りつき。そんな日常を繰り返していくうちに、私は段々と彼に心を許すようになった。そしてある日、私は彼に軽い気持ちで相談を持ちかけた。
「お母さんが、お姉ちゃんに付きっ切りなの。私のことは全部後回し…。私は愛されてないのかな」
彼は相変わらずパソコンをカタカタと鳴らす。目線もずっと画面に向いている。
「さあな。どんな姉なんだよ」
初めて彼に質問された。
「なんかね、ずっと喋ってて、私がそれは違うって言うとムキになって怒り出すの。他にも急にフッていなくなったり、急に落ち込んだり、怒ったり…正直よくわからない」
彼の返事は暫く返ってこなかった。そして思い立ったように突然口を開き始める。
「そいつは知的障害者かもな。アスペルガー症候群。脳の発達バランスが崩れ、長所短所の差が激しい人間が多い。やたら記憶力はいいけど、人とまともに話せない、とかな」
当時は「ふーん?」としか言えなかったが、それから私は図書室で調べ、知識をつけていくことになる。
「まあなんだ。もしそうだった場合だが、お前の母親は、お前のことを愛してやる余裕がねえんじゃねえの」
バッサリと言った。彼はバッサリと。それは小学五年生の心を突き刺すには十分すぎる言葉だった。
「…私いらなかったのかな」
鼓動が速くなる。彼は鼻で笑った。
「そんなこと言い出したらそもそも人間なんていらねえよ。生まれたから生きてる。ただそれだけだ。いるいらないなんて存在しねえよ。もし誰かに必要とされたいと思ってるなら、自分がそいつの分もやれ。一人二役、自給自足だ。所詮どこの親も我が子がいなくなったって、生きようと思えば生きられるんだ。その程度の必要性は必要とは言わねえよ。だから自分だけを大切にしろ」
意味わからん。そう、当時小学五年生だった私にそんなこと言ったってわかるわけない。今となっては彼の言い分が痛いほどよくわかる。でも当時の私には難しすぎてさっぱりだった。
「…よくわからない」
「例え誰かに必要とされなくても、あーもうお前いらねって言われても、自分だけは大切にしろってことだ」
自分を大切に…。
「お前が泣いたってそいつを慰められるのは自分だけだ」
悲しかったなあ。私はその時、確かに悲しさが胸に渦巻いた。そしてそれが現実なんだと、悟った。私が泣いていた時、誰も私の心も家庭環境も理解してくれなかった。でも理解してくれた彼が、そう言った。自分も孤独でお前も孤独なんだと。それが現実で、それが答えで、それが救いですらあった。そして、この会話をきっかけに私は彼とよく話すようになったのだ。小説の感想を口に出せば、彼は必ずそれに答えてくれた。こういう見方もできる、と。子供には到底思いつかないことを平然と言ってくる彼に、私は一々驚嘆した。そのうち私は彼と話すことが楽しくなり、嬉々として喫茶店に足を運ぶようになっていた。そして私は、いつの間にか彼のことが好きになっていた。家に帰ると彼のことばかり思うようになり、次は何を話そうかとドキドキしながら考えた。そして衝撃の日がやってきた。彼は言った。
「俺はもう喫茶店には来ない」
喫茶店からの帰り道、雪が降る景色の中、私はルンルンで彼の隣を歩いていた。
「え…?」
「新しい仕事ができた。だからもうあの喫茶店行けなくなった」
思考が固まった。嫌だ。初めての私の理解者。嫌だ。初めて私に生きる術を教えてくれた。嫌だ。
「お前に幸せがあること、祈ってやるよ」
そう言って彼は来た道を引き返し始めた。私は彼の背中に飛びついた。しがみついた。
「…いやだ。いかないで」
既に泣き声まじりだった。彼はじっと動かず、泣きつく私と一緒に雪を頭に乗せる。暫くすると、彼は私の手にそっと何かを握らせて、腕を振りほどき強引に走り去った。私は泣いた。寒い。寒かった。とてつもなく、凍えた。私の手には金が握らされていた。いかにも彼らしかった。女の子はさ、何か一つ思い出のアクセサリーや飾り物なんかが欲しいもんなんだよ?こうして、凍える涙と共に、私の初恋は終止符を打った。

ハッピーエンドⅣ(9/17)

コメント

No title

・・・とても切ない展開になってきましたね。
舞波に感情移入して読んでしまったので、なんだか胸が苦しくなりました。

>「例え誰かに必要とされなくても、あーもうお前いらねって言われても、自分だけは大切にしろってことだ」
この彼の言葉、好きです。
すごくストレートで胸にスコンッと入ってきました。

続編楽しみにしています!

No title

感想ありがとうございます!

てんすけさんは感受性が高いですね。
自分の書いたものでお粗末ですが、感じ取ってくださって嬉しいです。
てんすけさんのエールのおかげで、なんとか完結させられそうです!

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