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ハッピーエンドⅩ


ハッピーエンドⅠ(9/9)
ハッピーエンドⅡ(9/10)
ハッピーエンドⅢ(9/13)
ハッピーエンドⅣ(9/17)
ハッピーエンドⅤ(9/25)
ハッピーエンドⅥ(10/02)
ハッピーエンドⅦ(10/17)
ハッピーエンドⅧ(10/27)
ハッピーエンドⅨ(11/22)

ああ、ホント私は馬鹿だ。なんでこんなことに…。
「愛沢蓮がいじめられてるの知ってるよね」
私はある女生徒を追って、少し大きめの公園まで来てしまっていた。…感情とは時に制御が利かず、自分の敵とすら思えることがある。
「…だったら何よ」
無愛想に返事をする彼女。それは私が蓮ちゃんのいじめに感づいた時、急いで教室へと戻った際すれ違った女生徒。その女生徒のことをずっと忘れていた。彼女は廊下で蓮ちゃんぶつかった時、憎悪に満ちた表情でこちらを睨み、去っていった女生徒だ。私は彼女をいじめの犯人だと思い、学校内で見張る機会が増えていたのだが、とうとう声をかけてしまった。だって、彼女が、大切にしていそうな手帳を落としてしまっていたから。
「もしいじめているんだったら、すぐにやめてほしい」
彼女の表情は変わらない。
「それで?私があいつをいじめてて何か困んの?」
心がざわつく。怒りに身を任せてしまいたい。でも我慢だ。強く拳を握り堪え、手のひらに爪が食い込む。
「困るよ。数少ない友人が苦しむのは困る。私が」
はっ、と彼女は不適な笑みを浮かべた。それは私が観察してきた中で始めて変えた表情だった。
「つまり何?あなたの遊び相手がテンション低いと困るってこと」
「そう。私は蓮ちゃんともっと話して遊んでいたい」
嘲笑してくる彼女に、私は表情を崩さない。だって自分の幸せのために蓮ちゃんが居てほしいって気持ちがあるって、私が一番理解しているんだから。
「無理よ。諦めなさい」
彼女の嘲った態度はやまない。
「そうよね。だって蓮ちゃんをいじめてるのは、あなたじゃないものね」
ピクリと彼女の動きが止まる。嘲笑っていた表情がまた、無に近いものに戻る。
「…なんでそう思うのよ。自分からいじめるな、なんて言っておいて」
「だってあなたには無理だもの。私、ずっとあながいじめていると思っていたから、気にかけてたのよ。結果あなたには無理だった」
沈黙が流れる。そう、彼女を見張っていた間にも、蓮ちゃんは間接的ないじめを受けていた。彼女がそれを仕組めるであろう時間帯は私が見張っていた。だが彼女はいつも一人で、喜怒哀楽の無い学校生活を送っているだけだった。まるで昔の私のように。
「…藤峰よ。藤峰麗花(ふじみねれいか)。あいつがいじめの主犯格。大方愛沢が運動部でモテてるのが気に食わなかったんでしょう。というよりは、ただ愛沢が目立ったってだけで、標的なんて誰でもいいんでしょうけど」
しれっと答えてくれたことが以外だった。そして、そんな彼女を理解できないのにも関わらず、彼女の人間性を解ってしまった。
「教えてくれてありがとう。でも、ならあなたはなぜ蓮ちゃんを敵視しているの」
「ムカつくのよ、あの女。いつもヘラヘラして、つらいことあっても平気な顔して、周りにはいつも人がいて楽しそうに。鬱陶しい、目障り!………なんでこんな話してんだろ。バッカみたい」
私を睨み、熱くさせた怒りをぶつけてきたかと思えば急に冷め、私から顔を逸らし俯き気味になった。それでも尚彼女の怒りが静かに燃え盛っているのは、見るだけでわかった。それだけじゃない、私には解る。
「それは、あなたが私にこんなに話してくれるのは、同類だからよ」
「はっ?」
彼女は怪訝な表情を浮かべ、私を見る。
「一つ間違えば、私も蓮ちゃんが憎くてしょうがなかったと思う。私には蓮ちゃんが持っているもの、全部無いもの。温かい家庭も、家族愛も、元気さも、本人が持つ温かさも、人を明るくする力だって無い。ほしいものは全部蓮ちゃんが持ってる。じゃあなんで私が蓮ちゃんと上手くいっているかわかる?人に期待なんてしていないからよ。私は人生を上手く生きるために、ある人からその術を教わった。その一つが人間に期待しないこと。だから私は友人という存在を羨みはしたけど、欲することは無かった。はたから見れば友人と呼ばれるような人は、今も昔もいたわ。でもそれはきっと、お互い何かあれば簡単に切り捨てるような関係。私が友達と呼びたいものじゃない。蓮ちゃんが持っているもの、羨みはしたけど、欲することは無かったよ。あなたは欲しかったんじゃないの?だから憎かっ──」
「うるさいっ!!…うるさいよ。黙れよ…」
胃が締め付けられるような沈黙が流れる。彼女はとうとうキレた。そして今にも鳴き崩れそうな、消えそうな蝋燭の火のように、か細くなっていった。そんな彼女の姿は、もう一つの道を歩んだ私のように見えた。もうこれ以上、私に発言権は無い。結論は出たのだ。彼女は私も憎むだろう。腹が立つほど、泣いてしまうほどの図星を、私が突いたのだ。こんなことを上から目線で言うなんて、私はいつそんなに偉くなったんだ…。真実を伝えて、いい方向に転がるとも限らないと言うのに。独り善がり…だったのかな。振り向いて彼女を確認するなんて非道はできない。申し訳なさで胸が張り裂けそうな思いを飲み込んで、その場を去るしかなかった。
私は藤峰麗花を調べた。成績優秀。身長は160半ばと女性にしてはやや高め。スタイルも良く顔立ちも美形。家柄も良く、かなりの金持ちらしい。はたから眺めていると、高飛車の気があるように思えた。彼女の周りには本人同様、人を小馬鹿にして盛り上がる女生徒がいつも複数人いた。なるほど、確かに嫌な雰囲気があるのは見て取れる。それが私の第一印象だった。後はもう、いじめの犯人だという確実なものを見られればそれでいい。蓮ちゃんには悪いけど…。数日後、藤峰麗花と他四人だけが残っている、放課後の教室に足を踏み入れた。ガラガラッと扉が開く音が鳴り、相手は一斉に私に視線を向ける。
「皆さん、初めまして。春原舞波です。今回は、愛沢蓮に代わって、喧嘩を買いに来ました」
場が白ける。皆、何言ってんだこいつは?とでも言わんばかりの表情だ。
「はっ?何?喧嘩とかなんの話よ。いつ誰が誰に喧嘩売ったわけ?人違いしてるよ春原さん」
楽しそうにニヤニヤとしながら話しかけてきたのは、藤峰麗花。
「そういうのはいいです。高野さん、あなた昨日の昼休み時間、隣の男子から財布を抜き取りましたね。平山さん、あなたは近藤さんに嘘をついて、彼女と喧嘩別れをさせましたね。二宮さん、細田先生との援交、もうそろそろやめないと危ないですよ。周りの先生達が疑い始めているようなので」
私が読み上げた女生徒は皆、ピクッと小さな反応を見せ、たちまち焦った表情へと変わっていった。
「…それで?具体的に何しにきたの春原さん」
藤峰の表情も一変し、冷たい目でこちらを見下ろしてくる。
「一方的ないじめを、喧嘩という形で買ってあげると言っているんです。いじめってバレるとお互いめんどくさいんですよね。でも喧嘩という形だと、大して騒がれないんですよ、不思議と。私のスマートホンに、あなた達が蓮ちゃんと他生徒に間接的ないじめ行為をしている動画を撮ってあります」
私はスマホを取り出し、音声付きのその動画を遠めに見せた。皆固まって動けなくなり、焦りを通り越して青ざめていった。一人、藤峰麗花を除いて。
「ちなみに自宅のパソコンにコピーしてあるので、私のスマホを取り上げても無意味です。もし蓮ちゃんをこれ以上いじめるなら、これを学校中にばら撒き、ネットに実名を載せて上げます」
「は、犯罪だぞっ!」
藤峰以外の誰かが声を荒げた。
「知ったことではありません。それに犯罪者はお互い様でしょう。いいですか、もし今後いじめをしなければ、蓮ちゃんの件はただの喧嘩だったということにして、いじめそのものを無かったことにします。実はカウンセラーの先生が蓮ちゃんへのいじめに気づいてるんですよ。もし何か聞かれたら、私達はただの喧嘩をしていたが、仲直りしましたと言います。私はあなた方が売った喧嘩を買いました。後はあなた方が私の言った買値で、納得してくれるかどうかです」
自分の秘密がバラされそうになり、圧倒されている目の前の女生徒。でも藤峰だけは違う。
「ムカつくなお前…。というか頭良さそうなこと自慢げに並べ立ててるけどさ、お前馬鹿だね」
ふっ、と見下した笑いと目つきで私を嘲った。その次の瞬間、藤峰は私に殴りかかってきた。私は咄嗟にかわすも、藤峰は慣れた手つきでどんどん私を追い詰めていった。
「おいお前らも手伝えっ!手伝わねえとぶっ殺す!」
恐怖に青ざめていた周りの女生徒達は、はっとしたように藤峰の言葉に従い始めた。多勢に無勢。どうすることもできなくなる。取り押さえられた私は、藤峰にお腹を全力で殴られ、痛みで視界が歪むほどの蹴りを脇腹にもらった。痛みと共に堪えていた息が、口から漏れる。
「何が喧嘩だって?私とお前が同等だとでも思ったのかよ。でもまあ色々知られたみたいだしな、慈悲深い私が特別にお前を助けてやってもいい」
見下ろす藤峰はしゃがんで私の目線に合わせると、髪の毛を掴み上げ耳元で話し始めた。
「私のパシリをやれ。でなければ、今からお前の服を脱がして写真に収めてやるよ。当然マンコ広げた状態のも撮って、後は穴という穴に色んな汚い物ぶち込んでやるよ。なんなら今から男呼んでやろうか。お前綺麗な顔してるから、喜んでヤる奴多そうだしな」
クスクスと笑いながら立ち上がりスマホを取り出した。男を呼ぶつもりなのだろう。
「構わないよ。あなた達がいじめを行った動画を広められるんだから」
藤峰はかけようとスマホに付けた指をそのままに、私を冷たく見下ろす。
「それだけじゃない。高野さんの財布窃盗、平山さんの近藤さんへの嘘。二宮さんの細田先生との援交。まだまだある。本当やりたい放題やってきたんだね、あなた達は。その分、今私があなた達の首を締めてみせる。…言ったはず。これは喧嘩だって。殴られたら殴られた分まで返してあげる」
私は藤峰を睨む。藤峰の表情は変わらず冷たいまま。そして何やらポケットを漁り出した。出てきたのは市販のカッター…。ギッギギギと刃を出す音が鳴り響く。
「…お前、私を舐めてるの?もう一度言うぞ。私がお前を救ってやるって言ってんだ。そうだっ、そんなに私らに愛沢がいじめられるのが嫌なら、お前がいじめてみろよ。楽しいぞ…人なんて所詮おもちゃなんだから。有効活用してやらないとかわいそうだろ…。特にあの愛沢って奴はさ、強がってる振りして滅茶苦茶堪えてんのよ。超お幸せな奴だからさ、教えてあげてんだよね。人生そう上手くいかないよって」
不適な笑みを浮かべたと思ったら、今度は心底楽しそうにケラケラと笑い出した。
「暫くいたぶって心折ったら、今度はいじめる楽しさを教えようと思ってんだよね。人に夢見がちな馬鹿に現実教えてやればさ、誰だって自分以外の人間は便利娯楽道具でしかないって気がつけるのよ。…お前はどう?春原。お前も愛沢と同じ、お幸せ者なのか、気づいてない振りをしてるだけなのか…?」
カッターの刃で私の顎を持ち上げる。そこからスッと突き刺すか引けば、すぐ血だらけになるだろう…。
「私は人に夢なんて持ってないよ。所詮人は自分が望む状況を作りたがる生き物。正義だろうがなんだろうが、最終的には自己満足がその原点だって思ってる。だから私は私の望む状況を作るために、今こうしてあなたと喧嘩をしているのよ。私には蓮ちゃんが必要だから」
「だったらその蓮ちゃんも連れてきなよ。一緒に私のパシリやらせてあげるから。そうしたら二人ともずっと一緒だね」
小馬鹿にしたように笑い話す藤峰。どこまで人をコケにすれば気が済む。
「残念だけど、私の望む環境に、あなたはいらないわ」
「…お前、さっきから喧嘩喧嘩って言ってるけど、そんなに私と喧嘩がしたいわけ?いいよ…喧嘩してあげる」
藤峰は私を拘束している女生徒達を離し、私が立ち上がるのを待った。ズキズキと痛む殴られ蹴られた箇所を庇いながら、ようやく立ち上がる。その瞬間に藤峰が殴りかかってきた。こっちはもう避ける余裕もなく、殴られ勢いのまま崩れ、壁にもたれかかった。
そんな私の姿を見て、見下し笑う藤峰。
「なんだよ。喧嘩したいって言ってた割りに弱々じゃん。もし降参したくなったらいつでも言ってね。愛沢蓮をいじめますって。そしたら喧嘩するのやめてあげるよ」
そう言うともう一度、楽しそうに殴りかかってきた。ああ、さすがにちょっとつらい…。私はかわすことさえ諦め、痛みを覚悟し目を瞑る。ドンッと低音が鳴り響く。私は瞑った目をゆっくりと開けた。すると目の前には、殴ってきた藤峰ではなく、蓮ちゃんの後姿があった。
「…いいよもう。タッチ交代。ごめんね…元々私が売られた喧嘩なのに、舞波にこんなことやらせて」
震え声で蓮ちゃんは言う。なんで…なんで今出てきちゃったのかな。まったく蓮ちゃんは。
「ってーな…愛沢お前、ぶっ殺す!」
藤峰が始めて怒りを表情にした。それは誰が見ても殺意を宿していることがわかる。藤峰はカッターを取り出し、周りの女生徒に私達を攻撃するよう支持する。私は蓮ちゃんの背中で、こっそりと蓮ちゃんのスマホを受け取り…その場を全速力で逃げた。蓮ちゃんを盾にして逃げた。こんなこと、本当にしたくなかった…それを親友にもやらせようとしたんだから、私って最低なんだな。呼吸している実感もなく、意識だけが前へと進む。そして勢いよく、職員室の扉を開けた。
「蓮ちゃんが、カッター持った藤峰さん達に襲われてます!」


─────私達は、一人では乗り越えられなかっただろう。そのつらさに挫け、人が持つ闇に打ちひしがれる幼き子供だ。でも、大人よりは大人だ。私は人を信じ、親友と共に歩む道を選べたのだから。それはお互いにだ。だから、お互いに信じ合えたから、私達は乗り越えられた。
「冷たっ?!」
ボサッと雪の塊を投げつけられた。
「へっへーん。ぼーっとしてるからだよっ」
ニシシッと笑う蓮ちゃん。いじめに悩み、大泣きしていた彼女だとは思えないよ。
「みんな、わかってるよね…?」
「いぇす!舞波の姉御に加勢するぜっ!」
「勉強を見てもらった恩義、ここで返すわっ!」
「舞波先輩ばんざーいっ!」
「ちょっ、待てお前らっ、多すぎだろっ?!」
正義の舞波軍VSちょっかい魔人蓮ちゃん。この構図が当たり前のようにできたのは、あれから暫く経ってからのことだ。藤峰にいじめられていたのは、何も蓮ちゃんだけではない。更に言えば、藤峰を嫌っていた生徒も、私達だけではないのだ。あの後、蓮ちゃんを一方的に襲う藤峰と他四人を見た先生達は、彼女らをその場で現行犯逮捕。事情を話した末、数多くのいじめをしてきた確証を教師達に見られた藤峰は転校、他数名は退学扱いとなった。それから私達は、喜びだったり怒りだったりとごちゃごちゃに感情が混ざった中、お互いに申し訳なさを半泣き状態で語り合ったりした。その後、情報提供者にお礼をして回った。中にはいじめられてた生徒も何人かいて、藤峰グループが解体されたことを伝えると、泣いて安堵する子もいた。だからというわけじゃないけど、打倒藤峰から妙な関係が生まれ、新たに友達ができたりもした。私は勉強ができる方だから、よく勉強を教えていたりしたのだけれど、いつの間にか私を慕う人が増え、現在の構図に至る。
「ふぅーっ、疲れた」
よっこいしょと私の隣に座る蓮ちゃん。
「さすがにあの人数は卑怯だよ。しかも雪玉が当たった本人はこんな所で、悠々とベンチに座って眺めてるし」
「だって、私にこんないっぱい友達ができると思わなかったからさ。見てていたいじゃん、私の友達が、私の視界に全員入る光景を」
気づけば私は笑っていた。雪合戦で盛り上がっている白い校庭を眺めていると、蓮ちゃんは横から私の頬に指でぷにっとつついてきた。
「根暗め。まあでもっ、最近よく笑うようになったかな」
蓮ちゃんはそうやってすぐニカッと笑って誤魔化す。イラッとしても怒れないじゃない…。
「でも蓮ちゃんが教室に入ってきた時はびっくりしたよ」
「あー、あの時?だってあれ以上舞波が殴られるの見てられないよ。体だって絶対私より丈夫じゃないし、それにちゃんとスマホ渡したんだから結果オーライでしょっ」
そう、あの時蓮ちゃんに渡されたスマホ。あれは私と藤峰達とのやり取りを撮った動画が入っていた。蓮ちゃんには教室外から、動画を隠し撮るようにお願いしたのだ。事が穏便に済むようなら、その必要も無かったのだけれど、結果的にそれは必要な物となった。大事なのは私が被害者となっていじめられている動画。それは自分の意思で公開の有無を決められるから、脅迫材料として必要なものだったのだ。手はずでは、脅迫として成立するやや過激ないじめ動画が撮れ次第、教師を呼んで現行犯逮捕させる。そこからいじめの証拠を並べ、藤峰と教師両方を脅す。藤峰にはこれ以上馬鹿な真似をするなら、ネットと学校、しいてはゴシップ関連にまで公開すると。すると家柄のいい藤峰には厄介なネタとなる。教師は自分と学校の評価を下げないため、当然世間一般に広めたくはない。その結果、藤峰は転校という形になった。退学にならないところを見るに、やはり家の権力は強いのだと察せられた。
「でもね蓮ちゃん。自分陸上部なのわかってる?スポーツマンなら体は大事にしないと」
「その体で舞波を守れたんだから、スポーツ以上に名誉あるよね。っていうか、私スポーツよりもずっと、舞波の方が大切だし」
ぐっ…段々と口も上手くなって。誰に似たんだか。こっちを見ながらニカニカしながら足をバタバタさせる蓮ちゃん。赤くなっているであろう頬を隠すために、私はマフラーの位置をずらす。ルンルン気分だった蓮ちゃんの足が、ふと大人しくなる。
「…でもまあ、本当のこと言うとね。あれ以上舞波が酷い目に遭って、舞波が藤峰側についたらどうしようって思っちゃったんだ…。怖かったんだよ、前にあったから…。だから」
「大丈夫だよ蓮ちゃん。私知ってるから。そういうこと言いつつも、私を大切に思ってくれてることも本心だってこと」
「…うん。かっこいいこと言ってたのに、私台無しにしちゃったね」
舌を出して苦笑いをする蓮ちゃん。私は自然と笑みを零しながら言う。思う。
「そんなことないよ。今でも」
今でも、蓮ちゃんは私に人を信じる気持ちを教えてくれた、ヒロインなんだから。口には出せない思いを、私は肩をちょんっと蓮ちゃんに当てることでしか、伝える方法を思い付けなかった。
「おーいお前ら、遊ぶのも程々にしてちゃんと帰れよーっ!」
遠くから先生の声が響く。
「しょうがない、そろそろ帰りますかっ」
よいしょっと立ち上がる蓮ちゃん。わーわーがやがやと賑やかに下校する。なんだか楽しい。
「でさー、その時の舞波がさあ──」
「いやそれは舞波は悪くないよ」
「てかそれ蓮ちゃんのせいじゃん!」
「むしろそんなことしてしまう舞波先輩可愛い!」
おい、なんか良からぬ話題で盛り上がってないか?チラッと視界の隅に誰かが入った。あれ?この感じ…前にも。
「ごめん、ちょっと待ってて。遅くなったら先帰ってていいから」
「あちょっ、舞波?」
呼び止める蓮ちゃんの声を無視して、それでも確認したいことがあった。視界に一瞬入った女生徒が誰だったのか。以前すれ違った姿と、今の光景が重なる。あの時、彼女を泣かせてしまった公園で。
「…やっぱりそうだ」
私は息を切らして、呟く。彼女はブランコに腰を降ろしたまま、顔を合わせてはくれなかった。
「…ありがとう。あなたのおかげで、藤峰を転校させることができた。…本当にありがとう」
申し訳なさが前に出てしまって、声のトーンは低いけど、本当に感謝しているんだよ…。彼女はあの日以来、学校には来なくなってしまっていた。私のせいだ…今でも悔やんでいる。
「やっぱあんたは私とは違うわ。私は藤峰と戦おうだなんてこれっぽっちも思わなかった」
彼女は空を見上げながら言う。ただその言い方に怒りは感じず、虚脱感を思わせる、空しい物言いのように聞こえた。
「それは蓮ちゃんがいたから。私は一人だったら、多分抵抗しない。適当にいじめを回避して過ごすと思う」
「…私もね、いじめられてたのよ。藤峰に」
…なんだか、そんな感じはしてたよ。彼女はギーコッギーコッとブランコを漕ぎ始めた。
「だから、もしあなたが失敗した際、情報を売った私にも飛び火して、もっと酷くいじめらるって、そう思ったから暫く学校休んだのよ」
「そう…だったんだ」
「だからあんたが負い目を感じる必要は無いわ。実際あの女達を飛ばしてくれて、私も助かったもの。お礼を言わなきゃと思っていたの」
ブランコの勢いに流れて、彼女は一瞬宙を飛び、着地する。立ち上がると、始めて私の方を向いてくれた。そして一言「ありがとう」と、そうくれた。決して愛想がいいとは言えないけれど、彼女の真の重みが、私には解る。それがどれだけの「ありがとう」なのか。藤峰のことだけじゃない…。なら、あなたは…っ!彼女は振り返り、私の目の前から去ろうとしていた。それを私は気づけば追っていて、手を掴んでいた。
「…なら、もう意地張ってる必要も、ないよね?」
「…なんであんた、泣きながら笑ってんのよ」
そう怪訝な顔で言うのだが、彼女は決して私の手を振り解こうとはしなかった。
「おーい舞波ーっ。遅かったな!」
「舞波せんぱーいっ!」
「お腹空いたぞー!」
まったく、帰っていいって言ったのに。嬉しいなあ。
「ごめんごめん」
「おっ、誰その子」
「舞波のお友達?」
私は手をつないだまま、蓮ちゃん達の前まで来た。引いた手を前に出して、彼女を紹介する。
「ちょっと前にね、そこの公園で知り合ったんだ。ほらっ、自己紹介」
彼女は不慣れそうに言葉を詰まらせる。良かれと、からかい気味にフォローを入れる蓮ちゃんに、制裁する私含む周り全員。その光景を見て、笑う彼女。始めて見た、彼女の笑った顔。つながる笑顔。輪になる笑顔。ねえ、人を信じて良かったって、今では心の底から思うよ。だって、蓮ちゃんを信じていなかったらきっと、今頃こうなってはいなかったから。友達が増えて、みんなで笑って、断言できる幸せを、私は手に入れたよ。あの人には、いなかったのかな。蓮ちゃんのように、信じられる人が。今どこで何をしているかわからないけれど、私は今、とても幸せです。ポタッと雫が私の頬に落ちる。見上げると上には溶けかかった雪を乗せた木と、カラスが一羽、留まっていた。カラスは鳴きもせず、ずっとこちらを見ていた。
「ねえ舞波」
「うん?」
「私、舞波と出会えて、本当に良かったと思ってるよ」
照れるふうでもなく、それでも私の顔を見ることなく、肩が擦れるような距離で、蓮ちゃんは言ってくれた。当然私も、照れたりなんてしない。だって、本心から思うんだもの。
「私も、出会えて良かったと思ってるんだから」

────────── End.....?


今、この気持ちを伝えに…


──────────────
HE

コメント

No title

お疲れさまですー(;゚Д゚)!!
ついに完結ですね!?
舞波も蓮ちゃんもかっこよすぎて惚れました(*´∀`*)
>人に期待なんてしていないからよ。
なんて言いながらも、舞波は蓮ちゃんを本当の友人だと思えるようになりましたね。
それはイジメに二人で、力を合わせて立ち向かったからだと思います。困難を乗り越えて、絆が深まった感じですね!
いやぁ、それにしても舞波の藤峰の脅しに動じない姿とか、蓮ちゃんの舞波を護る登場シーンとか、本当にかっこよすぎですよ!

ラストも「ハッピーエンド」の名にふさわしい、心温まるものでした。しばらくこの余韻に浸っていたいです。
何気にカラスさん登場してて笑いましたwカラスさんが舞波達の世界を傍観してるって感じでしょうか…?

イラストも可愛いですね!向かって左の本を持っている方が舞波でしょうか。イメージ通りでした!

なんだかこの世界が終わってしまうのが本当にもったいないというか、寂しいです。
ぜひ続編読みたい!!

本当に良い物語をありがとうございます!
お疲れさまでした!

Re: No title

> お疲れさまですー(;゚Д゚)!!
あじゃじゃっす!!

> 舞波も蓮ちゃんもかっこよすぎて惚れました(*´∀`*)
> >人に期待なんてしていないからよ。
> なんて言いながらも、舞波は蓮ちゃんを本当の友人だと思えるようになりましたね。
> それはイジメに二人で、力を合わせて立ち向かったからだと思います。困難を乗り越えて、絆が深まった感じですね!
> いやぁ、それにしても舞波の藤峰の脅しに動じない姿とか、蓮ちゃんの舞波を護る登場シーンとか、本当にかっこよすぎですよ!
そう言ってくださって嬉しいです!
人には期待せず生きた癖に、唯一蓮ちゃんだけを信じ、彼女との行動を期待した舞波。
人を信じられる大切さを解ったからこそ“例の彼女”にも手を差し伸べたのだと思っています。
そしてこれからの生活に、舞波も例の彼女も、期待していくんだと思います。

> ラストも「ハッピーエンド」の名にふさわしい、心温まるものでした。しばらくこの余韻に浸っていたいです。
> 何気にカラスさん登場してて笑いましたwカラスさんが舞波達の世界を傍観してるって感じでしょうか…?
そこまで言ってくださると本当嬉しいですw
あのカラスは残念ながら自分の投射じゃないんですよね。
あのカラスを自分だと言うには、あのカラスさんにちょっと失礼かも知れません…ニヤリ

> イラストも可愛いですね!向かって左の本を持っている方が舞波でしょうか。イメージ通りでした!
そです!
蓮ちゃんはイメージと違かったっぽいですねw
ああいう顔は滅多にせず、いつも笑顔が多いんですが、この一枚は感慨深く舞波を見つめてますね。
ちなみに舞波の口元が隠れてますが、微笑がこぼれた顔をしていますよ!

> 本当に良い物語をありがとうございます!
> お疲れさまでした!
> なんだかこの世界が終わってしまうのが本当にもったいないというか、寂しいです。
> ぜひ続編読みたい!!
こちらこそご精読ありがとうございます!
本当にこんな感情移入して読んでもらって、書く側として一番の幸せですよ!
続編は、そのうち出ます…というより、まだ本当のエンディングが残っていますので…!
書きあがったらまた、読んでいただければ幸いです!
本当にありがとうございました!
ではその時までまたっ!

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